日本語・日本文化研修留学生修了論文集6(2004年)[*]

「?広がり中」
-日本語の語種と品詞におけるカテゴリー拡張-

Russell Lee-Goldman(米国)


要旨:日本語の語彙はどのように組み立てられているかは現在まで多く議論されてきた。特に議論になるのは、(i)日本語にはどのような品詞があるのかと、(ii)日本語の語彙目録にいわゆる「語種」の情報が入っているのか、という点である。本稿はこの2つの質問を完全には解決できない。しかし、品詞・語種と関係あると思われている形態統語的現象を紹介し、そして品詞論にも語種論にも説明できないことを指摘した上、認知言語学的なアプローチが最も妥当な分析を与えられることを主張する。

1 本稿の目標と日本語の語彙の組み立て

日本語の語彙を範疇化する方法は幾つかある。[1] 世界のほとんどの言語と同じように、語彙範疇(lexical category)といわれる分類は日本語にも当てはまる。日本語には、名詞、動詞、副詞、形容詞などの品詞があると一般的に認められている。さらに、英語に存在しない「動名詞」という品詞が必要であるとする説もあるが、何が動名詞か、そしてどのような性質を持っているかについては、後に議論する。しかし、語彙範疇以外の分類基準もあるのではないかと思われる。つまり、いわゆる語種である。伝統的な日本語学では語種の中には和語(大和言葉ともいわれる)と漢語と(西洋の諸言語からの)外来語とがある。通時言語学からいうと語種は認めるべき類別であろうが、共時言語学の立場からすると、語種は必要な概念であるかどうかには、議論の余地がある。

本稿では、品詞や語種といった概念の働きが見える可能性がある現象を考察してみよう。時間的関係を表す形式の「~中」を基準に語種や品詞による言語的な振る舞いの相違点を探求していきたい。時間的関係を表す「~中」などの構文(「~中」を代表的な表現とし、以下では「中構文」と書く)はShibatani(1990)や影山(1993)で言及され、ことにMiyamoto(1999)とOhta(1995)がこういった構文に着目した。本稿で問題とされるのは、「~中」の前に来る語や句はどのような性質を持つのかまたはどのような性質を持たなければならないのか、ということである。後に明らかになるが、この問題は語種または品詞、そしてその2つの概念の統語的振る舞いだけを観察しても解決されない。意味的要因も必要であることを示していきたい。最後に、中構文には単なる意味的要因ではなく、プロトタイプ効果と放射状カテゴリーという2つの認知的なプロセスが見られることを指摘する。

2 中構文の分析

2.1 中構文と語種

まず、中構文と語種との関係を観察しよう。(1)で見られるように「二字漢語+中」という構造は新聞などの公的文書に頻出している。

(1)
a. 子どもの33%が家族と食事中にメール送信
http://www.asahi.com/edu/kosodate/TKY200403310402.html
b. 知人の男は海外に逃亡中という
http://www.mainichi.co.jp/universalon/clipping/200401/202.html

確かに、中構文は文体的に硬い漢語にふさわしいが、漢語のほかに、和語の複合動詞も自然に使われる。

(2)「取り調べ中に犯行を自白したが(後略)」(朝日新聞 1998年9月30日「証拠のビデオ、金奪う場面なし──窃盗事件で逆転無罪」)

さらに、中構文は外来語も取る。

(3)「豪シドニー北東部のマンリー地区の海岸でダイビング中に行方不明になっていた山梨県出身の(後略)」(朝日新聞 1999年12月20日「豪州の海岸で、不明邦人の遺体発見」)

実は、擬態語を除くとどの語種も適切な語をいくつか含んでいる。以上の事実から、どのような形式が中構文に適切なのかは語種を観察するだけでは見つからないと思われるかもしれない。しかし、語種は必ずしも無関係なわけではない。後に見るように中構文がどのような要素を取るかを説明する際に語種の理論は関わってくる。

2.2 中構文と品詞

品詞に注意を向けると、「~中」の前に来る語は必ず動詞的な性質を持たねばならぬことは明らかであると言える。しかし、日本語の中でも動詞的な品詞は複数存在する。単形態素動詞や複合動詞(「扱う」や「盛り上がる」)の単純な動詞もあれば、いわゆる漢語系の動名詞(「勉強(する)」など)もある。しかも、動詞には多数の活用形もあり、それらも「動詞性」で違っている。具体例を挙げると、「書いて-いる」に現れるテ形は「書き-ます」の連用形と違う形態的・統語的振る舞いをしている。または、一見同じ連用形のように見える「取り替え」と「施し」との形は実は違う可能性もあって、前者は「動名詞」である場合もあるのに対し、後者は連用形としか捉えられない(Miyamoto 1999:34-35を参照)。品詞に基づいた中構文の分布の説明は影山(1993:37-39)で見られるが、この分析にも議論の余地が十分ある。(cf. Ohta 1995、そして同じ影山の動名詞化の議論(同:181-183))

影山(1993)は漢語動詞と和語複合語(の連用形に当たる形式)を動名詞とし、中構文に適切だと指摘する。さらに、単形態素動詞の連用形は動名詞の資格を持っていないのでふさわしくないと説明する。しかし、一見単なる連用形に見える形は実際には適切だと判断する人もいる。中にも、Ohta(1995)は中構文の分布を考察の際、「施し中」や「懲らしめ中」などを容認可能な表現として挙げている。こういった表現は完全に日本語の話者に認められていないようであるが、ある程度容認されるという事実は中構文が動名詞のみを取るという考えが間違いであると示唆していると思われる。第二に、「お+[連用形]+中」の敬意表現は可能であるが、「お+[連用形]」が動名詞のように「*?お調べする」の形で(謙譲語の場合を除いて)成り立たないのは上記の形式を動名詞と捉えられないからであろう。

同じ日本人の中でも与えられた動詞的要素が適切かどうかにすらゆれがあることは、これは品詞だけの問題ではないということを裏付けると考えられる。ある語が動詞なのか名詞なのかにゆれがあるというのは考えにくいが、他の(例えば,意味的な)要因があるとすれば、ゆれがあることは無理がない。以下では、どのような語が中構文に適切かを、その語の意味的性質に基づいて説明していく。

2.3 中構文と意味

意味的要因と言っても、意味的要素には数多くのものがあり、本論の問題と無関係のものは少なくない。主語の有生性などの(動詞に対する)二次的な素性はおそらく中構文における適切さとは関わらない。それより、動詞自体の意味に関連する素性が中構文との適切さを決めると考えるのが自然である。その中には、動詞の動作様態(Aktionsarten)や主体の意図性、そして他動性もあるわけだが、そのすべてが関わっているわけではない。実際は、上記の3つの性質の中では動作様態しか関わらない。

動作様態は実は動詞だけではなく、動詞とその補語が表す事象に関する性質である。ある事象が状態、到達、達成、活動を表すかは3つの二項素性から決まる(影山(1996)、Vendler (1967を引用して)。それは完結性と継続性と変化とである(表1を参照)。

変化 継続 完結
状態動詞(state)
到達動詞(achievement)
活動動詞(activity)
達成動詞(accomplishment)

表1.事象素性による動作様態の分類
http://www.arts.uwa.edu.au/LingWWW/LIN202/2K3/Overheads/Aktionsart4.pdfから)

中構文では継続性と変化は両方とも「+」でなければ参加の要求は満たされない。直観的には、「中」は継続している動作的な過程を表現し、変化しない、または一瞬で終わる事象にはふさわしくないと考えられる。下記の例を見ると明らかになるだろう。

(4)
a.  *存在中  (状態)
b.  *発見中 *到着中 (到達)
c.  執筆中  電話中 (活動)
d.  作成中  蒸発中 (達成)

変化または継続性に欠ける(4a,b)の動詞(厳密には事象だが)は中構文に不適切なのに対し、(4c,d)の動詞は自然であることは重要である。 しかし、ある動詞は活動ないし達成を表すというだけで中構文に参加できるわけではない。すなわち、この条件は必要であるが、十分ではない。例えば、「執筆」と同様な意味を表す句表現「文を書く」を中構文に当てはめてみると、非文が生じる―「*文を書き中に電話が鳴った」。この文はなぜ文法的でないかは後で説明されるが、この段階で重要なのは、上記の文の非文法性が、動作様態に関する制約が必要条件であって十分条件でないことを示しているということである。

そして、既に(4d)の「蒸発中」で見られるように、主体の意図性は議論の中構文とは深く関わっていない。中構文は生物が行う動作が最もふさわしいかもしれないが、非意図的動作を表す動詞である「蒸発」や「上昇」が適切であることから、主体の意図性で決まるとは考えられないだろう。同じように、事象あるいは動詞の他動性も同じ例文を見るとそれほど大切な要因ではないと思われる。

3 中構文の実際の使われ方

中構文の分析にあたって、どのような性質を持っている動詞が適格であるかをはっきりさせなければならない。前に述べたことだが、ある動詞が中構文に参加できるかどうかということは日本語話者によって違ってくるようである。そのような程度がある点を考慮すると、適切さを決める要素にも程度があることが予想される。確認のために日本語の母語話者を対象にアンケート調査を行った。調査の形式は以下の通りである(Appendix Bを参照)。

対象の日本語話者に対して、筆者による作例あるいは他の日本語話者が書いた文に準拠した日本語の文章を49文与えた。被験者はそれぞれの文章の文法性を判断し、日本語として「良い」「あまり良くない」「まったく良くない」のいずれかで文法性を評定するように指示された。49文の中で4つは中構文を含まず、明らかに正しくない文法あるいは意味的におかしい場面を含んだ「コントロール文」であった。残りの45文はいずれも中構文を含み、以下の表2のどれか1つが中構文に伴った(「NV」はNV型複合動詞、「VV」はVV型複合動詞、「統」は統語的(複合語)、「語彙」は語彙的(複合語)、という風に略してある。なお、特に示されていないかぎり当該の範疇は単形態素の語を指す。モーラ数は動詞の連用形のものである)。範疇の後に書いてある数字はアンケートでの文の数である。

        
前要素の種類 文の数 具体例
NV、動詞形あり2 身構える
NV、動詞形なし 5 山登り(*山登る)
VV統 4 読み始める
VV語彙、動詞形あり3 切り替える
VV語彙、動詞形なし 2 食い逃げ(*食い逃げる)
テ形の複合語2 食べてみる
一字漢語5 発する
二字漢語5 勉強する
和語の使役形3 取らせる
和語の受身形2 救われる
和語モーラ数<44 書く(連用形:かき)
和語モーラ数>=4 3 施す(連用形:ほどこし)
外来語 5 エンジョイする

表2.アンケートに出た補語の種類、出た文の数、具体例

21人にアンケートを与えて、その結果をまとめたものが表3である。表に現れる数値は次のように得られた。まずそれぞれの評定について、「まったく良くない」を0、「あまり良くない」を1、「良い」を2と数値化した。[2] そして、それぞれの文の(日本語話者に)与えられた評定の平均を測った。その上で、中構文に参加する動詞の範疇でそれぞれの文を分けて、範疇内の文の平均評定を組み合わせてさらに平均を測ったものである。例を挙げると、和語の使役形を含んだ文は3つあって、それぞれの文の平均評定は0.39、0.56、0.22である。その3つの平均は表3に書いてある通り、0.44である。この数値を測るには平均評定が一番高い人と一番低い人を除外した。非文法的なコントロール文を「良い」と判断した1人の結果も除外されている。[3] 最後に、与えられた文章に評定が示されていない(回答が書かれていない)場合は2つあったが、残りの結果を計算に入れ、その文章だけが(その被験者だけに)ないことにする。[4]

0.11 テ形の複合語
0.18 和語モーラ数<4
0.20 受身形
0.39 和語モーラ数>=4
0.44 NV、動詞形あり
0.44 使役形
0.44 VV統
0.44 一字漢語
1.43 NV、動詞形なし
1.44 VV語彙、動詞形なし
1.57 外来語
1.58 二字漢語
1.59 VV語彙、動詞形あり

表3.アンケート調査の結果
―品詞上の適切さの格付け(範疇の名は表2のとおり)―

表3にある結果から2つのことが明らかになる。1つ目は数値に範囲があること、つまり、与えられた動詞が適格であるかどうかは二値的でなく、中構文に対する適切さには程度があるということである。そして2つ目はそれと関連して、程度があるにしてもかなり適切な範疇とそう適切でない範疇に別けられるということである。すなわち、「一字漢語」は「NV、動詞形なし」との間では0.99の差があり、「一字漢語」とそれより低く評定された範疇はやや不適切で、「一字漢語」より高く評定された範疇は比較的適切であると考えられる。 しかし、そうは考えられると言って、1つ目の事実は説明されていない。すなわち、なぜこのように程度があるのか、そしてなぜこの順番になっているのかは説明しなければならない。そして、もちろんなぜ二組にきれいに切れているかも理屈づけるべきである。

4 先行研究

4.1 Ohta(1995)

まず、この現象は既に挙げられている枠組みによって説明されていないかを検討しておかなければならない。Ohta(1995:86-88)は次のような条件を設けている。

(5)「~中」の前に来る動詞的要素は(1)漢語の動名詞か(2)形態的に複雑な動詞(ここではVV型の複合動詞のことであろう)の語幹か(3)4モーラ以上の動詞の語幹か、いずれかでなければならない(最後の「4モーラ以上」という韻律的条件はTsujimura(1992)によると述べている)。

「動名詞」とは何かという疑問を置いて、まずこの説明は十分であるかどうかを検討しよう。Ohtaの説明で予測されない結合は1つあり、予測されていて実際には容認度の低い結合は1つある。表3に書いてある結果を見ると、NV型の複合語(動詞形なし)の容認度は比較的高いことがわかるだろう。確かに、明瞭にNV型の複合語を中構文から除外していないが、Ohta(1995)ではNV型の複合語は一切挙げられていない。おそらくそれは当該の構文とは関係がないとしていたからかもしれない。

Ohta(1995)の2つ目の問題点に移ると、4モーラ以上という韻律的制約が注目を引く。統語的過程の規則ではある語の長さは普通考慮されないのに、あまり根拠なくモーラ数に関連する規則が設けられている。それ自体に問題があるだろうが、それはともかくとして、モーラ制約の正当性に着目しよう。表3の結果からすぐわかるように、仮定されている4モーラ制約を満たしても、完全に容認されるようになるわけではない。事実、Ohta(1995)が(中構文に)適切だと予測していない動詞の種類の中にも、「4モーラ以上の和語」より容認されている範疇はいくつかある。しかし、「4モーラ以上の和語」が「3モーラ以下の和語」より適格さが高いことは確かに説明されなければならない。後で論じるが、これは単なる「制約」で説明できない現象のように思われる。

4.2 影山(1993)

Ohta(1995)の他に、影山(1993)は「動名詞」をテーマに論じている。「動名詞」という品詞が名詞の性質だけでなく動詞の性質も持っていることの証拠の一つとして中構文を挙げている。本質的に、中構文またはそれに似た時間副詞節は「動名詞」が主要部である文を要求すると主張している(影山 1993:32)。ここでは動名詞は「『する』を伴って動詞化する表現」であると定義されている(同:26)。この定義によれば、二字漢語だけではなく、VV型の複合語もNV型の複合語も含まれていて、調査の結果と一致しているように考えられるかもしれない。

しかし、影山(1993)は「漢語でなければならない」という条件だけではなく、より厳重な制約が働いていると述べている。他の制約があることが明らかな例文として、「マンガを立ち読み中(に)」のような、動詞形のない複合語を含む文を挙げて、非文法的であると述べている(同:237)。非文法性の理由については、上記のような文の「立ち読み」は動名詞であるものの、「*立ち読む」という動詞形がなく動詞由来とは言えないので、「立ち読み」が「格なし動名詞」だからだとしている。それに基づいて、中構文に現れる要素は「格あり動名詞」でなければならない、という制約があると主張している(同:33、237)。しかしながら、影山(1993)の判断と異なり、動詞形なしのVV型の動名詞はかなり容認度が高いようである(表3参照)。実際、調査の結果、次の(6)の平均評定は1.50であった。

(6)漫画を立ち読み中に店長に怒鳴られた。

(6)の文法性から、動名詞に「格あり」と「格なし」の類別は必要ではないことが明らかであろう。「立ち読み」のようなVV型の(動詞形なし)複合語に格付与の能力があるとすれば、説明が一貫する。つまり、中構文の唯一の要求は動名詞であるということになる。

しかし、影山(1993)の説明にはまだ問題が残っている。つまり、表3にある上位5類の語彙範疇のほとんど[5] が動名詞ではあるが、全て完璧に容認されるのではなく、わずかなゆれがあるように見える。第一に、第1位のVV型語彙的複合語(動詞形あり)の測られた数値は1.61なのに対し、第5位のNV型複合語(動詞形なし)の数値は1.42で、0.19の差が出ている。これは影山(1993)の説では予測できない。第二に、まったく動名詞の解釈がないVV型統語的複合動詞や単形態素の和語の使役形が(動名詞ほど良くないが、和語の受身形よりは)比較的中構文に参加しやすいことも、影山(1993)の分析からは予測できない。前に述べたことだが、中構文の性質は品詞に帰することはできないようである。

4.3 根本的な問題

意味的要素の話に戻ると、中構文に参加する条件の1つとして、「~中」の前に起きる動詞的形式は特定の動作様態の素性を持たなければならないことを論じた。それは「変化」と「継続」との2つの二項素性である。しかし、この条件は必要であるが、十分ではないので、条件を付加しなければならない。ここで困難なのは、設ける条件がどのようなデータに基づくべきかということである。つまり、表3の通り、中構文の許容度には「~中」の補語による程度があり、「容認される」と見なす範囲が変われば妥当な分析も変わる、ということである。最も理想的な分析は許容の事実を包括的に説明することであるが、まず比較的説明されやすい容認度の高い補語から検討しておかなければならない。それらの補語の振舞いを説明した上で、比較的低く評定されたものの振舞いも自然に導き出される分析を設けることに注意を向ける。

比較的低く評定されたものを除いて考察すれば、影山(1993)の動名詞を使う分析が妥当に見える。漢語・VV型複合語・外来語の3つは「~する」を伴うことができる動名詞であって、中構文の条件が満たされる。しかし、ここで問題点がある。NV型(動詞なし)複合語では中構文の分布と「~する」の分布が一致しないものもあるという点である。「*?振込みする」のように、中構文に参加できるのに普通「~する」を伴わない例もあるので、「動名詞でなければならない」という条件はすべての現象を説明できなくなる。

しかしながら、動名詞をもとにした説明が現在の日本語に当てはまらないことは、(歴史的に)最初から適当ではなかったことを必ずしも意味しない。実際は、中構文が使われ始めた時には動名詞条件のような制約が働いていたかもしれない。理由は次のようであろう。中国語の言葉が日本語に借用される時点では、「~(を)す」という構文は複合語を伴っていた(坂詰1984)。そして、中国の言葉(いわゆる漢語)が日本語に輸入されて、それも「~(を)す」構文で使われ始めた。中国語からの借用語が「~(を)す」に適切だったのは借用された語の大半が二字漢語で複合的であったからであろう。[6] ここで「する」を伴う動名詞という範疇が生まれた(または拡張した)かもしれないが、そもそも複合語と二字漢語は密接な関係にある。したがって、「動名詞らしさ」と複合性は深く関わっている概念であると考えられる。この考え方を次節に展開させる。

5 本稿の主張

中構文の話に戻ると、「中(チュウ)」は漢語系の要素であることに注意しなければならない。本来は漢語系の語にしか結びついていなかったと予想されるが、動名詞らしさと複合性の関わりのおかげで「中」も「~する」と同様に和語系の複合語と共に使われるようになった。この節で述べるように、この事実だけで表3の上位5類の範疇の適切さが説明される。

5.1 上位5類

第一に、上位5類の3か所に現れる和語からなる語彙的複合語がある。この範疇の調査で得られた平均評定は1.42であるが、この数値は5つの文に基づいている。(7)にその中の3つを紹介しよう。(すべての結果はAppendix Aを参照)

(7)
a. 庭の水巻き中に隣のおじいさんが訪ねてきた。(1.61)
b. 店じまい中に強盗が入ってきた。(1.50)
c. 山歩き中に熊に出会った。(1.50)

かっこの中の数値は与えられた評定の平均である。確かにゆれがあるようであるが、この構造は適切だと考えてよい。

第二に、二字漢語と肩を並べるVV型語彙的複合語の範疇がある。動詞形があるものとないものがあるが、両方とも中構文に対しては容認度が高い。(8)にそれらの範疇から1つずつの例を挙げる。

(8)
a. 電話を切り替え中に、切れてしまった。(1.83)
b. 漫画を立ち読み中に、店長に怒鳴られた。(1.50)

これらのVV型複合語は、(7)のNV型複合語と同様に容認度が高い。この3種類の複合語は二字漢語と変わりなく2つの意味的要素から成っている。しかし、和語の複合語のほとんどは動名詞でもあるので、どちらの要因が働いているか、それとも両方働いているかはここまでは不明である。上述のように「~する」と「~中」に参加する要素が一致していないことから、「複合語」を必要条件とすべきであるようだが、判断は残る漢語と外来語の範疇を検討してからである。

第三に、二字漢語の範疇がある。もともと中構文にふさわしいと見なされている二字漢語は2つの拘束形態素から成っている。その事実だけで「複合語」と言えるだろうか。森岡(1969)の分析に倣って二字漢語を2つの「漢字形態素」からなると見なすことはできるが、そう分析しないまでも、日本語話者の感覚では漢語は2つの意味的要素から構成されており、複合語であると仮定できよう。二字漢語の二字間の関係は複数あって、主語・述語(「国立」)、修飾(「絞殺」)、動詞・目的語(「読書」)、並列(「使用」)などが基本である。上の場合では二字漢語は合成語であることは明瞭である。

(9)
a. 水は蒸発中に、周囲の熱を奪う。(1.83)
b. 米国を訪問中に例の事件が起こった。(1.89)
c. 大統領と挨拶中に、背後で爆発音がした。(1.50)

しかし、項関係または並列関係にないと思われる二字漢語もある。森岡(1969)は二字漢語の中のそれぞれの漢字の(語全体に対する)意味の分析が困難、または不可能である漢語をいくつか挙げている。前者では「哲学」の「哲」の意味が明瞭でないことを指摘して、そして後者では(9c)に現れる「挨拶」などの漢語はそれぞれ含まれる漢字の意味が不明瞭というよりも、拘束形態素にならず、「あいさつ」が一塊として語彙目録に登録されているとしている。こういった漢語の中構文への適切さは複合語の条件だけでは説明が困難である。

説明が困難と思われる動詞的範疇はもう1つある。それは外来語である。1つの形態素からなっているにもかかわらず中構文に参加できる外来語は多い。(10)で3つの外来語を含む文を挙げているが、この例文を見ると外来語は中構文に適切であることがわかる。比較的珍しい一塊の二字漢語と同じで、その適切さは複合語であるゆえではない。

(10)
a. 休暇をエンジョイ中に、事故にあってしまった。(1.50)
b. 電車がスト中なので、バスで学校に行った。(1.78)
c. 彼は彼女とデート中に、緊張して一言も話せなかった。(1.83)

しかし、複合性はまったく関係ないわけではない。調査の結果に出た上位5類の範疇の各々は複合語であるか動名詞であるか、あるいはその両方であることは上の議論からわかる。「~(を)する」との相関を含めて考慮すれば、動名詞らしさと複合性は深い関係にあることは明らかになる。石井(1987)の漢語と複合語の言い換えや意味分布の研究もその緊密性を示唆している。

実は、一塊の二字漢語と外来語以外でも中構文における適切さを簡単に説明できそうにない動詞的範疇はいくつかある。「挨拶」類や「哲学」類の他に、「発する」などの一字漢語や和語の使役形や4モーラ以上を持っている単形態素の和語などの範疇が調査の結果で中間的な容認度を与えられた(つまり、上位5類ほどは高くなかったが、最も低かった「テ形複合動詞」「3モーラ以下を持っている和語」「統語的複合語」の3つよりは明らかに上であった)。後で論じるが、なぜ中層の範疇があるのかを説明する際に、一塊の二字漢語や外来語が許されることも明らかになる。

5.2 中間的な容認度をもつグループ

第一に、考慮の対象にあたる範疇は定義されなければならない。ここで考慮している動詞的範疇は「一字漢語」「VV型統語的複合動詞」「単形態素和語の使役形」「NV型(動詞形あり)複合動詞」「4モーラ以上をもつ単形態素和語」の5つである。この5つの範疇の表3の中の分布は1つのグループをなしていると考えてよかろう。その理由は、次の通りである。これらの中で最も良く評定されているのは「一字漢語」で、1つ上の「NV、動詞形なし」とで0.99の差がある。そして、最も低く評定されている「和語モーラ数 4」は1つ下の「受身形」より0.19高い。しかし、範疇の端にあるこの2つの範疇の間の差はわずかな0.05であることは、表3を見ると明らかであろう。

グループは指定されているが、数値の近さで1組にするので、数値の近さ以外の共有の性質を探らねばならない。一見「動詞的である」以外には全部の範疇にわたる共通の特徴はないようである。特定のつながりは実際にあるという議論を後にするが、まず今までの基準を変えずに(または一般的な条件を加えて)中層のグループを説明してみよう。まず、中には単形態素の語もあるので複合語の条件は除外できる。使役形は複合語かどうかには議論の余地があるだろうが、「施し(中)」は単なる単語であって、複合語の解釈はまったく不可能である。そして、動名詞の条件が一般的に働いているとも言えない。「*取らせする」「*電話しかけする」などという言い方は非文法的だからである。やはり別の要因が関わってくる。

5.2.1 概念の紹介-プロトタイプと放射状カテゴリー

中構文の性質を説明するには、2つの概念が必要である。Fillmore(1982)のCLIMB類のプロトタイプとLakoff(1987)の放射状カテゴリーとである。この概念を紹介した上で、中間的なグループの詳細を検討しながらこの2つの概念が中層グループばかりでなく上位5類の動詞をも含めて中構文の分析に妥当であることを議論していく。

5.2.1.1 CLIMB類のプロトタイプ

Fillmore(1982)は意味的なプロトタイプに6つの種類があることを述べている。その中の1つが英語のclimb(よじ登る、昇る)という動詞を代表とするCLIMB類プロトタイプである。この種類は両立可能な条件の選言(a disjunction of mutually compatible conditions)として定義され、一番良い例は選言の全ての選言肢が含まれるものである(Fillmore 1982:32)。Fillmoreが設けるclimbの条件は「手足を使う」と「上昇する」とである。例えば、飛行機の場合は手足がないにもかかわらず上昇する時はclimbで描写できるのに対し下降の時はできないと述べている。逆にサルが旗ざおを降りる時は上昇していないにもかかわらず手足を使って移動しているのでclimbの使用が許される。つまり、この2つの条件の両方またはどちらかが満たされれば良いが、どちらも満たされなければその使用は認容されないということである。

5.2.1.2 放射状カテゴリー

放射状カテゴリーは認知言語学で広く認められているカテゴリー拡張の一種である。どのカテゴリーにも中心メンバーと周辺メンバーがある(大堀2002:32-34)。その中心メンバーをプロトタイプと呼ぶわけだが、周辺メンバーはどのようにプロトタイプと関係しているかが問題である。「拡張の方向が何通りにも広がったカテゴリー」を放射状カテゴリーと呼ぶ(大堀2002:45)。日本語の例を挙げると、助数詞の「本」がよく知られている。中心のプロトタイプは「細い」「長い」「筒状」の3つの特徴がよく挙げられているが、他の使い方があって、それはプロトタイプと体系的関係にある。「コミュニケーションは導管」という比喩から「電話を一本ください」や、野球のバットや剣道の竹刀が細くて長いことから「ホームラン60本」「一本勝ち」ができた。そしてさらに、武道である剣道との類似を通じ、まったく道具のない空手や柔道ででも「一本勝ち」の言い方ができたのもこの放射状カテゴリーの働きであると考えられる(大堀2002:88-92、Corston-Oliver 2001)。以上の放射状カテゴリーは語彙の意味についてだったが、それだけではなく、文法(品詞、統語的構造)にも放射状カテゴリーの効果が見られると考えられている(大堀 2002:34)。

5.2.2 動名詞と複合語の歴史的関係

 

中層グループのデータを考察する前に、動名詞と複合語という2つの範疇と構文の歴史的な流れの素描を述べておかねばならない。4.3で述べたことだが、ある時点では「動名詞」のような範疇があって、和語の複合語と一字・二字漢語がそのメンバーであった。その時点では現在の用いられ方を持った「中構文」は存在しなかったと思われる。しかし、「動名詞」だといっても、当時の漢語と複合語は整合性を持った範疇ではなく、非常に近い2つの範疇であっただろうと考えられる。漢語が日本語の文の中で使われ始める前にも、「~(を)す」構文が和語の複合語を伴っていたことや、[7] 「~中」が漢語系の接尾辞であって本来漢語としか結びついていなかったことなどは、範疇が2つあったことを示唆する。

しかし、なぜ漢語は和語の複合語のように「~(を)す」構文で使われるようになったかは重要な問題である。次の通りだと推測できるだろう。当時の日本語話者は漢語と和語複合語との間に共通点を感じていた。大半の借用された漢語が複合語であったので、当時の文法が許す範囲で漢語を和語の複合語と同じような扱いを取った。実は、当時の日本語では漢語と複合語は現代の日本語よりも近い関係にあったと思われる理由がある。1つを挙げると、現代の日本語では和語の複合語は動名詞の使い方(「取り締まりする」)も動詞の使い方(「取り締まる」)もある語が多いのに対し、漢語では「取り締まる」のような構造に欠け、「する」との結びつきでしか動詞化できない。しかし、古くは、例えば「ものがたりをす」という言い方があったのに「ものがたる」という言い方が存在しなかった時点があった(糸井1985:130)。つまり、漢語も和語複合語も「動名詞」の用い方しかなかった。現代ではこの2つの範疇は少し離れているかもしれないが、緊密性はまだ残っている。

5.2.3 概念の適用

複合語(または複合性)と動名詞という深くかかわっている範疇を中構文のCLIMB類プロトタイプとし、放射状カテゴリーに当てはめれば、次のようになるだろう。

図1.中構文のプロトタイプとカテゴリー拡張

実線の楕円が「動名詞」の範囲を、 点線の楕円が「複合性」の範囲を示している。円形は中構文に参加できる非プロトタイプである。矢印が拡張の方向を示している。それぞれのカテゴリーには(周辺に)独自の特徴があり、中心に行けば行くほど重なる特徴が多くなるという形である。具体的には、次のような特長によって規定される。

(11)
複合語:
意味的要素が複数(形態的に複雑)
意味的要素間に項関係・並列関係がある
音韻的に長い(2フット以上
動名詞:
意味的要素が複数
「する」でしか動詞化しない(普通はサ変動詞で使われる)
(漢語
[8] が多いことから)音素配列制約がある語が多い

注意されなければならないのは、この特徴はカテゴリーの定義ではないことである。(11)の特徴はカテゴリーの中心メンバーと思われるものが持っている特徴で、カテゴリーの拡張の基準となるものだと考えてよい。

ここで表3の上位5類の範疇の分布が少し明らかになった。和語の複合語(語彙的、NV型とVV型、動詞形あり・なし)はすべて「複合語」に属する。一部が動名詞にも属するが、中構文がCLIMB類のカテゴリーであれば、これは問題にならない。そして、二字漢語(複合語でも「挨拶」類でも)は「動名詞」に属し、一部が「複合語」にも入る。上述の理由で「動名詞」にだけ入るものが許されるのも予測できる。最後に動詞化できる外来語は全部「動名詞」に属し中構文に適切になる。この範疇はほとんどの特徴を持っているので容認度が高いと考えられる。では、中間的なグループの分析に注意を向ける。

5.2.3.1 中間的なグループのデータ・分析

第一に、使役形を含む文の許容度を見てみよう。

(12)
a. 友達に歌を聴かせ中に、のどの調子がおかしくなった。(0.44)
b. 上司が部下にコピーを取らせ中に、もうクライアントがやってきてしまった。(0.44)
c. 赤ん坊にミルクを飲ませ中に、電話が鳴った。(0.44)

使役は一般的に「ある状態を引き起こす、あるいはある動作が行われるように(誰か・何かに)働きかける」という意味であるが、日本語では使役構造は2つある。それらは、「誘発使役」と「許容使役」と普通区別されているが、調査を行った時はその区別はしなかったため、ここで考慮に入れない。しかし、両方とも使役化される動詞の項数を1つ増やし、「使役者」という役割が含まれる、単動詞とかなり違う意味をもつ動詞を形成する。言い換えれば、使役の要素は有意義的な意味を加える。この点では、複合語の「意味的要素が複数」という特徴(あるいは複合語のプロトタイプの性質)が使役形の動詞に反映されると考えてよかろう。使役の接辞によって長さが増えるということも「複合語」との類似を支える。以上の事実のため単形態素の使役形が「複合語」の周辺メンバーとして捉えられて、従って中構文の範囲に入るようになる。

興味深いことに、使役の容認度は受身形の容認度の2倍以上である((13)に例が挙げられている)。理由として、次のようなことが考えられる。使役自身には意味があり、その意味が本来の動詞に加わって、両方の意味が見られるような新しい構造ができる。それに対し、受身の接辞自体にはわずかな意味しかなく、むしろ本来の動詞の視点を変える機能のみを持っていると言っても良い。換言すると、ある能動文とそれに対応する受動文は大まかに言えばまったく同じ事象を指示する。事実、受身の要素は単に動詞の項構造を変える機能しかないという見方もあり得る。以上の点で「複合語」の特徴を十分に持っていないと考えられる。

(13)
a. 難民が軍に救われ中に、また敵の攻撃があった。(0.18)
b. そのカメラマンはゲリラに捕らえられ中に、数百枚の写真を撮った。(0.22)

第二に、一字漢語の中構文との適切さを観察する。(14)にアンケートで使われた例が3つ紹介される。

(14)
a. 薬品を熱し中に毒ガスが出てきた。(0.78)
b. 遭難信号を発し中に通信機が壊れた。(0.72)
c. +極と-極が接し中に、爆発が起きた。(0.39)

かなりの差があるのだが、一字漢語は中層のグループの1つと考えられる。とくに(14c)は注意を要する。(14c)のような文が低く評定されるのは意味的ないし語用的な要因があると思われる。一字漢語は中構文に対して中間的な位置にあるのなら、もし意味的におかしく思われる要素が文に含まれていればその文の全体のおかしさが上昇することが予想される。(14c)の値はそのためであるかもしれない。しかし、一字漢語はグループとしてなぜ中間的な容認度を与えられたかという疑問はまだ残っている。

本稿の主張では、一字漢語は(12)の使役動詞と同じように中構文の放射状的な拡張によってその構文に含まれるようになった。今度は「複合性」ではなく「動名詞」がカテゴリー拡張の起点である。「意味的要素が複数」という特徴には当てはまらないが、残り2つには当てはまる。一字漢語には前部は音素配列に制約があって、後部が動名詞と共起する「する」に近い活用語尾がある。[9] この類似性で「動名詞」との結びつきができ、それを通じ中構文との結びつきができた。

ここで注意しなければならないのは、一字漢語は形態的に単純であって「複合性」という性質との類似から中構文に含まれるようになったとは言えないことである。しかし、これは放射状カテゴリーの理論にとっては問題にはなるどころか、予測されることである。放射状カテゴリーはいく通りかに広がったもので「全てのメンバーが共通の性質をもつ必然性はなく、中間のメンバーによってリンクが保証されればよい」(大堀 2002:46)という特徴を持っているからである。このことを認めれば、上述の一字漢語の説明はできる。

第三に中層グループにある4モーラ以上の長さを持つ和語系の単形態素動詞を検討しよう。(15)に例文を2つ挙げる。

(15)
a. うちの店が過去5年間ナショナルの製品を扱い中、一度も苦情が
ありませんでした。(0.39)
b. お坊さんが飢饉で困っていた貧しい農民にお米を施し中に恵みの雨が降ってきた。(0.56)

4モーラ以上の語の性質は中構文のプロトタイプの性質とでは「複合性」の「音韻的に長い」という特徴でしか一致しないがこれだけで十分である。4モーラ以上の範疇は中層グループの最小価値を与えられたこともこの結び方から説明されるだろう。「音韻的に長い」という特徴は確かに複合語が持つ特徴ではあるが、例外がなくはない。この薄れた関係で4モーラ以上の語が中構文に結びついているため、その容認度は低い方にあると考えられる。

残る範疇は「統語的複合動詞」と「NV型(動詞形あり)複合語」との2つである。しかし以下で見られるように、この範疇は特別な扱いを要している。

まず統語的複合動詞を見よう。表3によれば中間的なグループのメンバーのようであるが、それぞれの文の評定を観察する必要がある。

(16)
a. 電話しかけ中に、友達が部屋を訪ねてきた。(0.06)
b. アメリカとソ連が攻撃し合い中に、アフガニスタンの民衆が蜂起した。(0.28)
c. 私は勉強し始め中に十分に集中できないとなかなか進まない。(0.06)
d. 予定を確認し直し中なので、まだご返事できません。(1.39)

(16)の文章を見ると分かるが、VV型統語的複合語はあまり一貫した範疇ではないことがはっきりしている。とくに、アスペクト的な意味を持つものとそうでないものがある。アスペクトの意味を持つ方は中構文には不適切なことは(16)の文から明らかである。「~中」自体はアスペクトを表す要素であるため、もう1つのアスペクトを表す要素(「~かける」「~はじめる」など)が同じ文に現れると、それぞれの意味が衝突し全体としておかしくなるからであろう。それに対し、相互の動作を表現する「~あう」や「よりよい結果を得るために既に行った動作をもう一度する」という意味を表現する「~なおす」はアスペクトの意味に欠けているため許される。説明が困難なのは「確認し直し中」が比較的高く、「攻撃し合い中」が比較的低く評定されたことである。この段階では妥当な説明が難しいと思われるので、今後の研究に任せざるを得ない。

最後に中層グループの中で比較的低く評定されたNV型(動詞形あり)複合動詞を検討しよう。このような動詞は古くは数多かったが、現代日本語ではVV型複合動詞と比べて非常に数が少なく古い感じがする場合が多いようである。アンケートに使われた2つの例文が(17)に挙がっている。

(17) a. 相手の攻撃に対して身構え中に、師匠の言葉を思い出した。(0.50)
b. 出かける準備に手間取り中に、電話がかかってきたのでイライラした。(0.39)

NV型動詞形あり複合動詞が中間的なグループに位置していることは、ここまで説明してきた方法では説明されない(本稿の5.1の(8)または5.3.3.1を参照)。「VV型動詞形あり」とは動詞形があることで一致しており、「NV型動詞形なし」とはNV型であるいう点で一致しているので、中層グループではなく他の複合語と同じグループに入ると予測される。ここで完全に説明はできないが、おそらく上で触れた事情が関わっているかもしれない。つまり、NV型(動詞形あり)複合語が現代日本語では非常に珍しく日本語話者にとってはあまりなじみな存在にないかもしれない。換言すれば、このような動詞はおかしく思われやすいかもしれない。明らかであるのは、今から中構文のこの面についての研究が要求される。

5.3 容認度の低いグループ

最後に、最も低く評定された「受身形」「3モーラ以下の単形態素和語」「テ形の複合語」の3つの説明に向ける。受身形の不適切さは前節で述べたのでここで「3モーラ以下の和語」と「テ形の複合語」に注目する(以下の(18a,b)に3モーラ以下の和語の例を、(18c,d)にテ形複合動詞の例を挙げている)。

(18)
a. その論文を書き中に、新しい研究テーマを思いついた。(0.28)
b. この運動施設を使い中には、定期的に体の調子を確かめてください。(0.06)
c. 日本酒を飲んでみ中に、酔っぱらってしまった。(0.06)
d. 友達に宿題を手伝ってもらい中に、いろいろな話をした。(0.17)

前者は容易に説明される。単形態素なので「複合性」の特徴の1つも当てはまらなく、「動名詞」の特徴も全くない。中構文の2つのプロトタイプとの結び付けようがないので、許されないことが予測される。[10]

しかし、テ形の複合語はまた違う理由で不適切である。(11)でプロトタイプの特徴を述べたときには言及していなかったが、「複合性」にも「動名詞」にも存在する特徴がある―1つの「語」を成しているという特徴である。VV型語彙的複合語にせよ一塊の二字漢語にせよ、以上検討されてきた動詞的形式は全て1つの語を成している。統語的複合語も形態部門で一語になっていないとしても統語部門のプロセスが終わるまでに複合化される。それに対してテ形のいわゆる複合語は複合のテストに当てはまらない(影山 1993:170 )。つまり、統語部門の過程が終わってからも1つの語にはならない。「一語になっている」というのを「~中」が補語にかける形態的な必要条件とすれば、「テ形の複合動詞」は難なく除外される。

6 結論

日本語の語彙はどのように組み立てられているかという問題が本論の出発点であった。特に「品詞」や「語種」という概念が形態統語的な現象を説明できるかどうかを研究した。中構文と名づけた構文を中心に品詞や語種の必然性を探ったが、結果としてはそれ以外の概念が必要であることが明らかになった。つまり、ある構文の要求を説明するには認知言語学という分野で発展されているプロトタイプや放射状カテゴリーという概念の重要性が見られた。

前節では以前一緒に使われていないと思われる上述の2つの概念を組み合わせて中構文に可能な補語の種類を説明した。要するに、中構文に参加する形式の中に一番典型的な「プロトタイプ」という形式があると主張した。しかも、そのプロトタイプは代表例でもなく、抽象的なイメージでもなかった。厳密に言えば特性のリストでもなかった。中構文のプロトタイプはFillmore(1982)のCLIMB類プロトタイプで、2つの面があるものである。その2つの面(範疇)は「複合性」と「動名詞」の2つである。中構文の典型的なメンバーのほとんどはこの2つの範疇の両方にも当てはまっていることがわかった。そして、中構文の周辺メンバー(本稿で「中層グループ」)は以上の2つのカテゴリーの放射状的拡張のため構文に含まれていることを主張した。

この議論のために品詞論の用語である「動名詞」を使ったが、語種論の「漢語」という概念は必要ない。形態統語的な現象には品詞という概念が必然的に関わってくる。(11)で「動名詞」というカテゴリーを立てたが、これは伝統的な品詞の1つと考えてもよかろう。重要なのは中構文を説明するに当たって「動名詞」以上の概念が必要であることである。それに対して、語種は共時的な議論には関わっていない。歴史的には漢語の輸入で和語と漢語の違いがはっきり日本語の文法に反映されていたかもしれない。しかし、その歴史的区別は現在見られる文法的な傾向(漢語が「~中」と結びつきやすいことなど)の起源ではあるが、本稿の分析からわかるように、語種という概念を立てずに中構文が説明が可能である。

7 今後の課題と研究

本論で考慮できる範囲を超えた問題をいくつか取り上げよう。第一に、同じ動詞的形式の範疇のなかでも中構文における適切さが変わる場合があることが興味深い。今度の調査の上位5類の範疇にも差が若干あって、中間的なグループに来ると範疇内の差がはっきりした場合があった。本稿では暗黙の了解で中間グループの容認度が低いのはプロトタイプとの「距離」が大きかったりプロトタイプとの関係が薄かったりしているため容認度が比較的低いと考えてきたわけであるが、基本原因を探求する必要がある。

第二に、上で述べたが、NV型複合動詞の内、動詞形があるものとないものの(中構文に対する)著しい差異は完全に説明されていない。統語的複合動詞の中で「~合う」と「~直す」は本質的に違う可能性もあるが、今回の調査の結果が本当の中構文における適切さを完全に反映しない可能性もあるだろう。いずれにせよ、今後も研究が必要である。

最後に、時間や規模の制限のため、今回は調べられなかった動詞的範疇や構文はいくつある。例を挙げると、本稿には取り上げられていないが、本来は複合語で今はほとんどの母語話者に単形態素と思われる語は、本来から単形態素である語と違う振る舞いをしているかどうかは研究する価値があるかもしれない。該当する動詞は「かたどる」「みとめる」「うけたまわる」などがある。特に「承り中」はよく見られる使い方である。他には、二字漢語の使役形や受身形なども調べるべきであろう。そして、2.2で触れたが「お+[連用形]+中」という構文は場合によってはできるようである。例えば、(19)のような例が見られる。

(19) MSN のディスクスペースをお使い中に、次のようなメッセージ が表示される場合があります。 (http://www.microsoft.com/japan/office/support/msn/

行ったアンケートこのような文章を入れていないが、使用頻度の高さから見ると普通に使われているようである。この事実は本稿の分析では説明されるだろう。「お+[連用形]+中」はどのような統語的構造で成り立つかは別として、意味的には要素が2つあるという点で「複合性」の特徴の1つと一致している。しかし、受身形と同じように、指示される事象はまったく変わらないという疑問はあるかもしれないが、この表現は違うと考えられる。尊敬表現か謙譲表現を使うとその動詞が表す事象の範囲が狭くなる。例えば、尊敬して「お使い中」を使う場合は「話し手が使う」という意味にはなり得ない。しかし、調査を行ってこの構文の生産性や容認度を調べないと結論には達しにくい。これらの問題が残っていることは日本語の語彙の組み立てについての研究はまだ長い将来があることを意味しているだろう。




[*] 本稿は大阪外国語大学・留学生日本語教育センターのJコース(日本語研究)の修了論文として投稿されたものです。2004年9月発行予定。This paper has is the version submitted as part of the requirements for the J-course (research track) program at the Osaka University of Foreign Studies, Japan. It is due to be published in 09.2004.

[1] 本稿の作成にあたり、大阪外国語大学・留学生日本語教育センターの今井忍先生と岸田泰浩先生から貴重なコメントを頂いた。記して感謝したい。なお、アンケート調査に協力を頂いた方々にも深謝を示したい。もちろん、本稿に誤りが残っていれば、すべて著者一人の責任である。[back to main text]

[2]数値化せずに、それぞれの答えを答えた人の割合で動詞的形式の範疇の比較は行い得るが、ほぼ同じ結果になるので、本論では数値化の方法で分析する。[back to main text]

[3]アンケートで言うと(I-1)の文である。Appendix Aでも見られるが、ここに述べておく。「古いパソコンしか備わっている研究室で研究させられるのはいやです。」ちなみに、コントロール文の中には文法的に正しいが意味的にはおかしく思われるという文が1つあったが(V-8)、この調査では「意味的におかしい」という判断も考慮に入れたいので「良い」と判断しなかった人の結果を除外しない。[back to main text]

[4]Appendix Aに載っている結果の表では数値の変わりにNRが書かれている場所は「回答なし」を示している。被験者1がV-8に対して、被験者18がIII-10に対して評定を示さなかった。[back to main text]

[5]「する」で動詞化するという基準では、NV型複合語やVV型複合動詞の中に動名詞の範疇に入らないものも少なくない。「山登り*(を)する」はその1つである。[back to main text]

[6]坂詰(1983)の調べでは1283年に書かれた『沙石集』の中の二字漢語の異なり語数は一字漢語の異なり語数の二倍以上(前者は151語である)あるが、二字漢語の使用数では一字漢語の約3/4である(後者は1236回である)。[back to main text]

[7]「~(を)す」構文が使われ始めた時点は不明であるが、漢語(中国語)が漢文にしか使われなかったときに「[複合語](を)す」が存在したことがわかる。[back to main text]

[8] ここで「漢語」という語種の名を取り上げたが、日本語の文法(語彙目録)に「この語は漢語だ」漢語という情報が登録されているかどうかという問題は本稿の議論と無関係に考える必要がある。[back to main text]

[9]本稿では一字漢語を「漢語系の拘束形態素+する」と定義する。一字漢語の種類や定義、そして「する」部分の性質については坂詰(1984:170)やPoser (2002)が詳しい。[back to main text]

[10]「話し中」や「休み中」といった表現は一見反例に見えるが、実はこういった言い方は本論で扱われている中構文と異なると考えられる。詳しくはOhta(1995:87-88)を参照。[back to main text]

参考文献

石井正彦(1987)「漢語サ変動詞と複合動詞」『日本語学』2(6) (46-59) 明治書院

Corston-Oliver, Monica (2001) “Central meanings of polysemous prepositions: challenging the assumptions.” Poster presented at the International Cognitive Linguistics Conference UCSB, Santa Barbara, CA. <http://www.corston-oliver.com/Mo/Professional/Papers/EnglishBYICLCPoster.doc>

Fillmore, Charles J. (1982) “Towards a Descriptive Framework for Spacial Deixis.” In Jarvella, Robert J. and Wolfgang Klein (ed.) Speech, Place, and Action: Studies in Deixis and Related Topics. Chichester: John Wiley & Sons Ltd.

糸井通浩(1985)「『あしずり』語誌考」『国語語彙史の研究 六』和泉書院

影山太郎(1993)『文法と語形成』ひつじ書房

影山太郎(1996)『動詞意味論:言語と認知の接点』くろしお出版

Langacker, Ronald W. (2000) “A Dynamic Usage-Based Model.” In Barlow, Michael and Suzanne Kemmer (ed.) Usage Based Models of Language. Stanford: CSLI Publications.

Miyamoto, Tadao (1999) The Light Verb Construction in Japanese: The Role of the Verbal Noun. Amsterdam: John Benjamins Publishing Co.

森岡健二(1969)『近代語の成立』明治書院

森岡健二(1987)『現代語研究シリーズ第1巻・語彙の形成』明治書院

野村雅昭(1984)「語種と造語力」『日本語学』3(9) (40-54) 明治書院

Ohta, Kaoru (1995) “The Verbal Stem Form of Japanese.” Journal of the Association of Teachers of Japanese 29(2) (79-126)

Poser, William J. (2002) “Lexical Periphrastics: a Third Periphrastic Construction in Japanese.” Unpublished ms. <http://www.cis.upenn.edu/~wjposer/papers.html>

坂詰力治(1984)「動詞の諸問題―古典語のサ変動詞を中心に―」『研究資料日本文法  第 二巻 用語編(一) 動詞』鈴木一彦、林巨樹(編)明治書院

Shibatani, Masayoshi (1990) The Languages of Japan. Cambridge: Cambridge University Press.

大堀壽夫(2002)『認知言語学』東京大学出版会







Appendix B アンケートの形式

アンケートへのご協力のお願い

Russell Lee-Goldman


現在、私は日本語に関する修了論文を作成しています。研究のために、以下の調査がどうしても必要です。ぜひご協力をお願いいたします。ご回答は、6月XX日までにいただければ嬉しいです。

以下に日本語の文章が書いてあります。それぞれの文の文法性(日本語として、文法的かどうか)を判断してください。判断する際に、各文を評定して、次のようにお示しください。

○=良い
△=あまり良くない
×=全く良くない

より詳しく評定していただける方、または感想をお書きいただける方はぜひお書きください。(例えば、文章のどこがおかしいか、どのぐらいおかしいか、他に書かれている文よりまし、やや不自然なのか)


(1) [  ]古いパソコンしか備わっている研究室で研究させられるのはいやです。
(2) [  ]+極とー極が接中に、爆発が起きた。
(3) [  ]遭難信号を発し中に、通信機が壊れた。
(4) [  ]休暇をエンジョイ中に、事故にあってしまった。
(5) [  ]薬品を熱し中に、有毒ガスが出てきた。
(6) [  ]お金を振り込み中に、トラブルが起きた
(7) [  ]私たちは山登り中に、遭難してしまいました。
(8) [  ]漫画を立ち読み中に、店長に怒鳴られた。
(9) [  ]日本酒を飲んでみ中に、酔っぱらってしまった。
(10) [  ]昔の友達と会えて嬉しいでした。


(1) [  ]その論文を書き中に、新しい研究テーマを思いついた。
(2) [  ]店じまい中に、強盗が入ってきた。
(3) [  ]山歩き中に、熊に出会った。
(4) [  ]相手の攻撃に対して身構え中に、師匠の言葉を思い出した。
(5) [  ]友達に歌を聴かせ中に、のどの調子がおかしくなった。
(6) [  ]+極とー極が接し中に、爆発が起きた。
(7) [  ]米国を訪問中に、例の事件が起こった。
(8) [  ]ゲームで打つジャンプ・ショットは、体が上昇中の時や最高点、そして下降中にある時など、様々な高さやケースで放たれるものです。
(9) [  ]過激派がデモ中に、警察に捕まった。


(1) [  ]警察が麻薬を取締り中に、交通事故が起きた。
(2) [  ]友達に宿題を手伝ってもらい中に、いろいろな話をした。
(3) [  ]水は蒸発中に、周囲の熱を奪う。
(4) [  ]鈴木先生は新しいの車を買ったそうだ。
(5) [  ]庭の水まき中に、隣のおじいさんが訪ねてきた。
(6) [  ]赤ん坊にミルクを飲ませ中に、電話が鳴った。
(7) [  ]警察が犯人を捕まえ中に、三人が死亡しました。
(8) [  ]うちの店が過去五年間ナショナルの製品を扱い中、一度も苦情はありませんでした。
(9) [  ]ボールをパス中に、捻挫してしまった。
(10) [  ]難民が軍に救われ中に、また敵の攻撃があった。


(1) [  ]そのカメラマンはゲリラに捕えられ中に、数百枚の写真を撮った。
(2) [  ]論文は今書き中です。
(3) [  ]タイヤキを食い逃げ中の少女に出会った。
(4) [  ]横領の穴埋め中に、上司にバレてしまった。
(5) [  ]お坊さんが飢饉で困っていた貧しい農民にお米を施し中に、恵みの雨が降ってきた。
(6) [  ]家の裏にある扉をたたき中に、家の中から「は~い」という声が聞こえました。
(7) [  ]出かける準備に手間取り中に、電話がかかってきたのでイライラした。
(8) [  ]電話しかけ中に、友達が部屋を訪ねてきた。
(9) [  ]私は勉強し始め中に十分に集中できないとなかなか進まない。
(10) [  ]予定を確認し直し中なので、まだご返事できません。


(1) [  ]電話を切り替え中に、切れてしまった。
(2) [  ]アメリカとソ連が攻撃し合い中に、アフガニスタンの民衆が蜂起した。
(3) [  ]電車がスト中なので、バスで学校に行った。
(4) [  ]重税を課し中には、民衆の反乱が起きやすいと言われている。
(5) [  ]上司が部下にコピーを取らせ中に、もうクライアントがやってきてしまった。
(6) [  ]大統領と挨拶中に、背後で爆発音がした。
(7) [  ]この運動施設を使い中には、定期的に体の調子を確かめてください。
(8) [  ]その豚は株を買うとき、いつも友達のアインシュタインと相談します。
(9) [  ]彼は彼女とデート中に、緊張して一言も話せなかった。
(10) [  ]論文を作成中に友達に来られた。

ご協力いただきまして、本当にありがとうございました。